紋谷のソコヂカラ

わたしの体に 何をする.

投稿日時:2009/12/19(土) 19:01

日々、自分の周辺で起こる、さまざまな出来事のせいで、
困ったなあ…とか、嫌だなあ…とか、しんどいなあ…とか、
面倒くさいなあ…とか、悲しいなあ…とか、
なかったことにしたいなあ…とか、
そういう感情が湧きあがったときに、
「まあ、なんとかなるさ」と大きく構えていられる、
そんな人間でありたいと思って生きた。

今のボクとって、
「病院に行き、検査を受け、病気の進行度合いを確認して、
医師と治療方針を相談する」

この行為は、もっか最大の関心事であり、
癌野郎が(あえて野郎とする)ある日、ぴゅー…と
煙とともに壺の中に消えてくれない
ことは、あらかじめわかっている以上、
イージー!イージー!とも ケセラセラとも、
なんくるないさぁ~とも、マイペンライとも、
なかなかに思えず、検査を受けに行く1週間前から、
心の中にでっかくて黒い石があるような 
そんな気分となってしまう。

そしてこの黒い石は、毎日、どんどん、でっかくなる。

男としての器が小さいなあ 
小さい、小さい…と自覚はするものの、
どうしようもない。

14日は件の病院へ行く日。
…前の晩から眠れず、気が付いたら、
この黒い石が最高にでっかくなっていた。

このままではつぶされてしまうと思い、
なにか手立てはないかと思案した。

…そこで、思いついたことは、
「今日は僕自身の体の具合を確認しにゆくのではなく…
 誰か他人の、自分とは関係のない人の病状について
 取材をしにゆく…
 そういう風に考えられないか」と考えた。

考えるだけでは、頑固な自分はだまされてくれないので、
なにか具体的な手段は…と更に思案した。

ひとつは、取材なんだから“カメラ”を持参して、
いろいろ撮ってみるのは、どうだろう…
そうそうこの手は昔も使ったが、
撮影するという行為は客観的に物事を捉えるには
最適な行為だった、
よしよし…と決めた。

そうなると、取材なんだから
今日の出来事を文章にまとめる必要がある。

はじめから、まとめるつもりで臨めば、
ことらも客観的に見聞きする…よしよし。 
こう考えると気持ちが楽になってくる。

どうせなら、チャカしてしまおう。 
…そうだ、わが友人、宮田クンの
「おもしろエッセイ風」におもいっきり
チャカしてしまおう。

…となった。
宮田君については後述する。

「すまん…とりあえず宮田パクル!」
 
■■ ということで 以下、宮田風でまとめてみた ■■
※注…あくまで“風”である。 

あのフィレンツェ風チキンのローストの“風”であり、
「うーんアールデコ風の素敵なお宅ですネ」の“風”であり、
様子するに、「オマエ、今日の3ゲン…出る?…的な…」の
“的な”と同意であり、
「おっちゃん!これ…ヴィトンちゃうやん…
 ロゴんとこ…BITON…てなってるやん!」の“B”に相当する…

様子するに「偽物」であります。
でありますから、わたしのまがい物の文章を読んで、
宮田クンのエッセイがこの程度の代物とは思わないで
もらいたい。彼のエッセイはとてもおもしろい。

●●●

今日は、検査だ。
血液検査とCTのふたつを午前中にこなし、
午後にもう一度出直し、
主治医のもとに外来で伺うという段取りとなる。

病院までは車で20分…環状道路から幹線道を経由すれば、
嵐のCDに併せてフン♪フン♪…と
3、4曲鼻唄を歌っていれば着いてしまう。

別に嵐でなくてもよいのでは…と思うのは素人の浅はかさ、
やはりこういう時は嵐である。
この桜井君のなんともノリにくいラップがいいのである。

…と、僕のフン♪フン♪…が4曲目を越えたあたりで、
なにやら今日は道が混んでいることに気付いた。

さっきからぜんぜん前に進んでいないではないか。
何をしているのだ、このままでは検査の時間に遅刻してしまう。

前を見ると、環状道路から幹線道の曲がり角までに、
車の長蛇の列ができている。

もっと前に気付けよ…
しかし、こういう時に冷静なのが大人というもの、
決して桜井君のせいではない。

おっ!目の前に信号が…よし!ここを曲がってしまえ! 
行ったことはないが、なんとなく行けるのでは、
と思ったらハンドルを切っていた。

自慢ではないがわたしは、東大いや当代、稀にみる
方向音痴である。

駅からの帰宅途中、途中のコンビニに寄り、
買い物を済ませ外に出て…
また駅に向かう道を歩いてしまうことが
“たびたび” ある男である。

不安がよぎらないわけではないが、
こういう時は決断と実行である。

…この決断は見事に当たった。
なんとなく右曲がったり、左曲がったりしていたら…
病院までつながる道に出たではないか。
そういうことだ。

たいていのことは成せばなるのである。
「いまどき…ナビはないのか?」と
不思議に思う方もいるだろう。

もちろんない。

文明の利器に頼るなど笑止千万。
男子たるもの最後は自らの感に頼れ!である。
なんとなく曲がっていれば、
最後は目的地に着くようになっている。

無事に病院に着いた。
しかし駐車場に入れない。

駐車場が、晴れた日曜日の原宿のH&Mのセール前くらいに
混んでいる(行ったことはない)。
なんとか停めることができて、受付を済ませ、
まずは「採血」に向かう。…

ここがまた混んでいる。
お隣のFOREVER 21も負けじとセールを始めてしまい
歩道歩けないじゃないか!ってほど混んでいる。
(行ったことはこちらもない)

今日はとりわけ、
神奈川県中の癌患者が勢ぞろいしているのでは…
と思うほど混んでいる。

見渡せば採血ルームには50人くらいの
じいさんばあさんが。
部屋に入りきれず廊下にもじいさんばあさん…
もうあたりかまわずじいさんばあさんである。

そこに颯爽と凛々しく活力に溢れたわたしが登場する。

受付のカードを渡すと、
「…CTの検査入ってますね?…このままじゃ間に合わないので、
 今、採血の受付だけされて、
 先にCT行かれたほうがよいですよ」

と看護師が言う。

CTの予約時間には、まだ40分もあるではないか。
なんのために知らない道にチャレンジしたのだ。
あえて危険を冒してまでたどり着いた苦労が水の泡ではないか。
こんな凛々しい若者になにをする!

しかしアナウンスされる受付番号は、
まだわたしの100番も前のようだ…
くやしいが、ここは言うなりになるしかないようだ。

少し、困った顔をしていると、
じゃあ…CTに行っている間に、
順番が来たら 適当に順送りにしてくれるという。 
そいつはラッキイ。やはり凛々しく活力あるわたしに
はそうでなくてはいけない。


エレベーターに乗り、レントゲンの受付に行く。
少し待って、僕の番となる…? 

「もんやさん すいません。
 …造影剤の同意書書かれています?」

「はあ?…ええ…先日 書きましたが」

「そうですか。おかしいですね。
 カルテの中に見当たらないのです」

「はい?」

「少しお待ちください」

CT撮影を鮮明にするために入れる造影剤は、
アレルギー症状がでることもあり、
同意書が義務付けられている。

前回来た折に、確かに記入しているはずなのだが、
どうもそれが見当たらないらしい。 

廊下のベンチで待たされてると、また看護師が…

「どうも、ないようなんです。
 同意したということでいいでしょうかね?」とやってきた。

いいのかそれで、そっちがいいならこっちはいいが、
そういう細かいところいい加減だと、
倫理規定も紙くずになるぞ。

「はい。もちろんかまいませんが。
 わたしは、まじめに斜めに生きてきた人ですから、
 終わりよければすべてよし。
 なんてことが座右の銘だったりしていますし、
 ただなんだか、そういう時に限って、
 事故とか起こるような気がするというか…
 ええ、もちろんたかが造影剤ですから…
 事故って言ってもねえ。そりゃあもちろん。
 ええ 心配なんかしていま…」

「ありました ありました!」
と違う看護師が向こうから大きな声で言っている。

「もんやさんのカルテ膨大でして…どうも同意書が、
 紛れ込んでいたようですいません」 

膨大で悪うござんした。

ではこちらとCTルームに。

受けたことのある方は、ご存知でしょうが、
CTの撮影はあっという間に終わる。 

MRIやPETに比べるとほんとうに短くて助かる。

…とここで切りだしてみる。

「 あの?このマシン…撮ってもいいですか?」
と聞くと。

「…ええ(笑)…どうぞ」と言うので、パチリ。 

しかし、どうもマシンだけというのは味気ない
これでは、臨場感というものがでない。

「看護師さん …横に立ってもらえますか?」

「ええ!?わたしなんか…でも…
 お化粧もしてないし…困ったわ…どうしよう…」

うーん長くなりそうなので、

「じゃあ 僕を入れて撮ってもらっていいですか?」

「ああ…はい(少し残念そうだ)」

パチリ

 

「わたし 長くここにいますけど
 写真撮られた方は初めてですよ」 

いつの間にかレントゲン技師の医者も来ていて、
笑いながらうなずいている。

「はあ。癌だからって、
 気持ち暗くしているだけじゃ、もったいないじゃないですか。
 なんでも楽しくですよ」

採血ルームに戻る。 
相変わらずじいさんばんさんで溢れている。
また来たな!この無駄に凛々しい若者め!
と何人かが睨んでいる。

どうも。

僕の番号は呼ばれたばかりのようであったが、
少し待つと約束通り呼んでくれた。

無事に採血も済み…
いったん自宅に戻るとする。



~~~  ~~~

夕方4時 
出直してやってきた。 

泌尿器外来は1階の一番奥…
ここも日中は、じいさんばあさん…
特にじいさんで溢れている。

しかし、この時間ともなると受付にはほとんど人がいない。 
わたしのほかには、ご夫婦らしきひと組だ。

看護師が話しかけている。
どうも、手術のために入院が決まり、その説明を受けている。

放心状態の夫、看護師の説明を聞きもらさまいとする妻…
失礼ながらわたしには見なれた光景であります。

以前、にも同じようなご夫婦を見かけたことがある。

「俺が死んだら…すまんな…俺が死んだら…すまんな」

「ばか言ってないで…」

「すまんな…すまん…」

「……」 

その後、その旦那さんと同じ病室になった。 
旦那さんは一日中、元気がなく…同僚が訪ねてきても 
娘がお見舞いに来てもあまり話さず 
日がな静かに過ごしていた。 

奥さんがやってきたときだけ、少ししゃべる。
それも「ああ」とか「うん」とか…

手術の説明に担当医が来た時も…
質問するのはぜんぶ奥さん 
本人はただ、黙って聞いている。

それが手術が終わり、術後の経過も良かったようで 
無事退院の日が決まると一変した。

「ははは 心配することないんだよ。もうだいじょうぶ。
 なあ…こいつが心配性だから…まったく大げさなんだよ」と
見舞客に応え、

「飯がうまけりゃ、もう少しいたいんだけどなあ…
 おい明日 煮物でも持ってきてくれよ」
と奥さんに言いつける。

奥さんは、何も言わず にこにこと黙って聞いている。

まったく男とはなんと弱い生き物か…とも思うが…
なんだかんだひっくるめてうらやましい。

「CTの画像では、肺の腫瘍が大きくなってる以外は、
 他への転移はみられませんね」

パソコンには僕の輪切りの画像が映っている。



首先から足の付け根まで、
マウスの操作でパッパと切り替わる。

どうもこの画像は見るに堪えない。
なんだか、背中がむず痒くなる。直視できない。

しかし、それでは困るので、これはそう。
イカ飯だと思うことにした。

「9月の検査では、GOTの値も高かったから…
 肝臓転移も考えたのですが、
 やはり画像には何もないですね」

「もともとの首のリンパ節は?」

「ええ。こちらも、変化ないですね」

主治医はイカ飯の…
一番太い部分 肺の画像を映し…

「やはり この肺の腫瘍が
 AFP値を引き上げているんでしょうね」

「でも、先生。12000にもなっているんですよ。
 その原因がこの肺の腫瘍だけ?」

「ええ。結局、数じゃないんです。
 その腫瘍がひとつでも…
 大きな作用があればAFP値はあがるんですよ」

「まったく、こいつは…
 わたしの体に何をする!! って感じですね」

実際、この腫瘍は悪の親玉というわけではないのだろう。
あくまでひとつのアラート。
こいつが消滅しても、体の中の微に入り細に入る癌細胞が、
完全になくなることとイコールではない。
それでも、目下の敵はこいつと断定すれば、目標が生まれる。

見えざる敵と対する恐怖よりかは、
ぜんぜんマシというものさ。

「先生 この画像写真撮ってもいいですか?」

「…?ああ…ははは…こんなの撮るのもんやさんだけですよ」

「ついでに、先生も」 パチリ



最近というか、ここ1年。
会う人ごとに「もんやさんは元気そうだ」とか、
「太った」とか「やせないんですか?」とか 
「ぜんぜん病気に見えない」とか
「まだ、死なないのですか?」とか、
そんなことばっか言われて、
まことにどうもくやしい思いをしていた。

精一杯 元気そうに見せている 
このわたしの気遣いがまったく伝わっていない。
これではいかんと思っていたので、
これ見よがしに、いやこれ幸いにと… 
イカ飯画像を撮ってやった。



「で…どうしましょうか?」

きた。どうしましょうか?…
ここでひいては男がすたる 
抗がん剤は入れたくはない

入れたくはないが、ここはひとついれておくべきだ。
そして、目下の敵を駆逐するのだ。

「はい。予定通りにお願いします」

…といっても この病院は混んでいる…
すぐの治療は難しいのではと思っていたら

「ああ。泌尿器の○○ですが…ええ。
 入院の手配をお願いしたいのです。
 お忙しい方で…ええ。
 もんやさんと言って…ええ 
 もう慣れていらっしゃる方なんで、ええ
 一番早く日曜日の午後に入っていただき…ええ
 月曜から治療を…どうでしょうか?」

と病棟のナースセンターで婦長さんと話している。 
…別に忙しくはないが ナイスなフォローです先生。

「ああ…だいじょうぶ。ではそれでお願します」

ということで、21日月曜日からの投薬が決まりました。

入れてしまうと 
体調がグダグダになるので 
このブログが書けるよう回復するまで
しばしお待ちください。

また、投薬後の効果に感しましては、
1カ月近くはかかると思われます。
結果がでましたら、
またここでご報告させていただきます。

以上で報告は終わりです。 

はじめに今回は宮田風 
おもしろエッセイ風にすると言ったのですが、
途中で、こりゃ無理がある…と。

インドやミャンマーやラオスやカンボジアでの
バックパッカーの見聞きする新鮮な体験や 
珍妙なるベトナムの盆栽や
南米のジェットコースターの話しでこそ、
この文体は活きるのであって、
病気や病院の話は そもそもが暗すぎて 
なんか妙にブラックな自虐的なユーモアが先立ってします。 

したがってなんとも中途半端な形となりまして、
まことにあいすいません。 
文体を拝借しました宮田クンにはお礼として 
最後に泌尿器外来の美人看護師さんの写真をお礼として、
差し上げます。



もちろん癌でもないし神奈川県民でもないあなたが、
彼女と知り合うことはないとは思いますが。

■宮田 珠己■ 
旅行記を中心に活躍している、おもしろエッセイスト。
追いつき追い越せ“椎名誠”をテーマに著書多数。

ときどき意味もなくずんずん歩く
わたしの旅に何をする。
晴れた日は巨大仏を見に」:幻冬舎

ウはウミウシのウ
旅の理不尽」:小学館 

「東南アジア四次元日記」:旅行人
 ほか

読むと旅行に行きたく本ばかりなので、
そこのところはご注意 

また、あまりに面白すぎて 
どうも本屋さんが仕入れ制限をしているらしく
探しても書店にないものも多いので、
ちゃんと注文してください。


コメント


モンちゃん(サル?)失礼。偶然サイトを見た、通りすがりのものです。君に会える最良の方法はありますか?by-ジョンマックレーン(NY市警刑事:敬称略)連絡先キボンヌm(@@)m

Posted by 高松 透  at 2010/01/04 00:07:13+09 PASS:
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