紋谷のソコヂカラ 2008/8/15

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採血なるもの

投稿日時:2008/08/15(金) 00:37


今日は採血、という朝は、少しドキドキする。
血液というのは、誠に正直で、しかも雄弁…
今の自分を真っ裸にしてくれる。
腫瘍マーカー値はもちろん、いくら元気を装っていても 、赤や白だの血球量が、今の自分の“そのママ”を映し出す。
余計なことに、腎臓や肝臓などがちゃんと機能しているかなんかも、バレてしまう。
癌で入院してるのに、お酒飲み過ぎですねぇ~なんてことも言われたりする…

大きなお世話です。



隠し事はしない質なんでね…などと言っていても、
そうありたいというだけで、恥ずかしいことなどは、自ら口にしないだけ。
昔から格好つけて生きていた僕などは、
この真っ裸にされる感じが、とても落ち着かない。
陳腐に例えると、あのテストの答案を返される感じ。
見たいけど見たくない…ああっ~恥ずかしい。
「先生だけは、この52点という点数を知っている」

採血次第では、天国と地獄。マーカーの数値は人生を左右し、
白血球の数値は、週末に外泊できるか否かを決定する。

先日の話。
僕と僕と同室の男性が採血結果を待っていた。
普通の病院に外来で通っているのであれば、
一般的なデーターの検査でも2~3日は待たされる。
しかしここがんセンターでは,早ければ1時間半で検査結果は出てしまう。

採血を8時に終えれば、10時にはデーターは出ている。
ただし、あくまで採血の結果が出たというだけ。
ここに“医師の判断”がなければ数字は意味を持たない。
外来を忙しくこなし、医者が患者さんごとに“判断”を伝えに
病棟に上がってくるのは、1時を回る。
その日は、特に外来が混んでいるらしく、
3時を過ぎても医者は姿を見せなかった。

同室の男性の所には、午前中早い時間から、
奥さんと小学校にあがったくらいの娘さんが、顔を出していた。

「パパ痛 くないの?」
「痛くないよ」
「ふぅん…ねぇ早く帰ろうよぉ」
「もうちょっとだから待っててね」

「あなた…今夜は何食べたい?」
「(笑)…そうだなぁ…何でもいいよ」

絵に描いたような…とはこういうことだ。
普段は当たり前過ぎて意識していない幸せは、
こういう時に改めて感じるのだろう。

「ごめんなさいね、先生、外来が忙しくて…もう少しお待ちくださいね」
「はい」
「体調はいかがですか?」
「調子いいですよ」
「採血結果よければ…外泊ですよね」

「明日ね。花火行くのぉ~ねぇ~」
「あらぁ~いいわねぇ~」

病院という場所では、パパさんの威厳も優しさも、
着古したパジャマのように色褪せている。
自宅に帰れば、ほんとうの自分に戻れるのだ。自然と笑顔も出てしまう。

ママさんもうれしい。
自分が、うれしいのはもちろん、
“あなた”がうれしそうなのが…とってもうれしい。

パパとママがうれしそうだから、“ワタシ”もうれしい。
早く帰ろ…オウチに帰ろ。


ほどなくして先生がやってきた。

「◯◯さん…今からお部屋移ってもらいます」
「え!?…」
「残念だけど…白血球が400しかない」
「………?………」
「お見舞いも当分は無理かな」
「…………」
「奥さんは仕方ないけど、お子さんは…」
「………………」

「◯◯さんすいません。ベットごと動かしますから、すぐ準備してもらえますか」
「…………」

「……荷物片付けないとね…ほらベットから降りて…」
「パパぁ~どうしたのぉ?」
「……………」

遅れること5分
体育会系元気印の看護師2年生…大きな声で…

「もんやさぁん…採血結果出ましたぁ。先生、外泊OKですって!!」

僕は、彼女を睨みつけた。
「……?…」
手招きをして、ベットの脇に呼ぶ。人差し指を唇の前に。

「あっ!?…」

無言で首を振る。


今日も採血の日。
まったく 血を抜きすぎだ。貧血になっちまう。

朝の採血は中条さん。
そのフレンドリイさが、患者とその家族にも評判のホスピタリテイの高い看護師さんだ。
夏休みはカナダにロッキー山脈を見に行くらしい。
ストレスの溜まる仕事、楽しんできてください。

そろそろお昼。


愛する女房の手料理も、可愛い子供との花火も、
ロッキーマウンテンの雄大な眺望も、
僕には、まったく縁がないが、
また今日も、少しドキドキとしながら採血結果を待っている。


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